スマホ画像×AIでアトピー性皮膚炎の重症度を即判定 自宅から症状を評価できるデジタルバイオマーカーを開発-国際医学誌Allergy誌掲載-

慶應義塾大学医学部皮膚科学教室/慶應義塾大学病院アレルギーセンターの足立剛也専任講師(京都府立医科大学兼任)、同教室の雁金詩子助教と、帝京大学医療技術学部視能矯正学科の広田雅和准教授らの研究チームは、国内最大級のアトピー性皮膚炎(注 1)患者さん向け投稿アプリを用いて、患者さんが自身で撮影した皮疹画像から、その重症度を人工知能(AI・注 2)が自動で解析・評価する新たな AI モデルを開発しました。
この AI モデルは、診察室の外でも、患者さんが自ら皮膚の状態を継続的・医学的・客観的に把握できるツールとして、日々の生活の中での「気づき」や「判断」を支援します。さらに、医療機関においても、皮疹の重症度を継続的かつ標準化された方法で評価できる「デジタルバイオマーカー」(注 3)としての活用が期待されます。
本研究成果は、2025 年 5 月 20 日(UTC:協定世界時)にアレルギー領域で最も権威ある国際医学誌の 1 つである Allergy(オンライン版)にて公開されました。

1.研究の背景と概要

アトピー性皮膚炎の多くは幼少期に発症し、成人期に至る長期的なケアが求められます。個々の患者さんに応じた治療が望まれる一方、通院に伴う時間的・経済的負担や、医療機関での限られた診療時間などの課題があり、個別化医療(注4)の実現は容易ではありません。
一人ひとりの症状に応じた継続的な支援に、近年目覚ましい発展を遂げる情報技術(IT)の活用が期待されます。これまで、医療機関の精緻な皮膚画像を分析するAI技術は研究が進められてきましたが、我々は、患者さん自身が撮影した写真を高精度で解析できるAI技術の開発が次のステップだと考えました。患者さんが日常生活で気になった皮膚症状をAIが客観的に判定できることに焦点を当て、アトピー性皮膚炎の患者さん約2.8万人が参加する投稿型アプリ「アトピヨ」(図1)に蓄積されたデータを活用し、AI技術の開発に取り組みました。同アプリは約5.7万枚の投稿画像を保有しており、本研究では画像解析AIを用いて皮疹の重症度を評価しました。AIモデルの作成は、医療機関で撮影された画像と異なり、様々なノイズ(光、角度、背景など)を考慮する必要があり、大きく3つのアルゴリズムを統合したモデルを作成しています:身体の部位の検出、皮疹の部位の検出、および皮疹の重症度判定(図2)。皮疹重症度には各皮疹部を個別に簡便に評価できるThree Item Severity(TIS・注5)スコアを用いました。

図 1. アプリの投稿画面

図2.アルゴリズム三要素を統合したAI モデル

2.研究の成果と意義・今後の展開

作成したAIモデルの検証により、身体部位の同定率は98%、皮疹部位の同定率は100%と高精度を示し、重症度判定も専門医の評価と強い相関(R=0.73, P<0.001;図3)を示しました。これにより、日常生活で得られた画像データを用いた本モデルの有効性が示されました。また、他の客観的評価指標であるobjective-SCORAD(注6)とも比較的高い相関(R=0.53, P=0.04)を示した一方で、患者さんの主観的評価であるかゆみスコアとは相関が低い(R=0.11)ことも明らかとなりました。これは、アトピー性皮膚炎において、見た目の皮疹の重症度と、患者さんが感じるかゆみの程度が必ずしも一致しないことを示唆しており、客観的な症状評価には本モデルのような独立した指標が必要であることを示しています。

図3. 作成モデルの検証

今後は、患者さん自身によるセルフモニタリングへの応用や、皮膚症状に応じた個別かつ医学的なアドバイスを自動提供できるシステムの構築を目指し、患者さん一人ひとりのニーズに応じた医療支援に役立てることを想定しています。さらに、今回のAIモデルを標準化された評価ツールとして臨床研究に活用し、治療効果の予測や症状悪化の早期検出といった新たな診療支援にも展開していく予定です。
今回の研究では主に日本人のデータを用いてモデルを構築しましたが、今後は肌の色や質など多様なスキンタイプに対応した追加学習・検証を進め、国際的にも汎用性の高いAIモデルの確立を目指します。将来的には、こうした技術を通じて、医療と患者さん、さらには社会をつなぐ新たなデジタルヘルスプラットフォームの構築に貢献し、アトピー性皮膚炎における診療の質の向上と、患者さんの生活の質改善につなげることが期待されます。

3.特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業「アトピー性皮膚炎をモデルとした次世代リバーストランスレーショナル研究基盤構築に向けた研究」(課題番号:JP22ek0410090)、厚生労働科学研究費補助金(課題番号:21FE2001)、および公益財団法人セコム科学技術振興財団の支援を受けて実施されました。

4.論文

英文タイトル:AI-based objective severity assessment of atopic dermatitis using patient
photos in a real-world setting: a digital biomarker approach
タイトル和訳:実臨床における患者写真を用いたAIによるアトピー性皮膚炎の客観的重症度
評価 ― デジタルバイオマーカーとしての応用 ―
著者名:雁金詩子*、広田雅和*、高橋ちあき、宮川明大、赤穂亮太郎、中島沙恵子、
二村昌樹、米倉慧、小川靖、猪俣武範、石川哲朗、伊東可寛、正木克宜、佐藤さくら、
加藤則人、森田英明、足立剛也
(*共同筆頭著者)
掲載紙:Allergy
DOI:10.1111/all.16586(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.16586

【用語解説】
(注1) アトピー性皮膚炎:かゆみを伴う湿疹が繰り返し出る慢性の皮膚疾患で、乳幼児期に発症する ことが多く、皮膚のバリア機能の低下やアレルギー体質が関係しています。
(注2) 人工知能(AI):人間の知的な働きをコンピュータ上で再現する技術。画像の解析やパターン認識などを自動で行う能力を持ちます。
(注3) デジタルバイオマーカー:スマートフォンやアプリ、センサーなどのデジタル機器から得られるデータをもとに、病気の状態や重症度を示す指標のこと。医師の診察以外でも健康状態を評価する手がかりとなります。
(注4) 個別化医療:患者さん一人ひとりの体質や生活スタイル、病状に合わせて最適な治療を提供する医療の考え方。パーソナライズド医療とも呼ばれます。
(注5) Three Item Severity(TIS):アトピー性皮膚炎の重症度を簡便に評価する指標で、紅斑(赤み)、浸潤・丘疹(腫れやぶつぶつ)、ひっかき傷の3項目を数値化します。
(注6) SCORAD/objective-SCORAD:アトピー性皮膚炎の重症度を医師が評価するための国際的な指標。皮疹の広がりや状態をスコア化して総合的に判断します。「objective-SCORAD」は患者さんの主観を含まない客観評価スコアです。

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※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、厚生労働記者会、厚生日比谷クラブ、京大記者クラブ、千葉県政記者室、千葉県市川市広報広聴課、在阪民放四社京都支局協議会加盟社、各社科学部等に送信しております。

【本発表資料のお問い合わせ先】
慶應義塾大学医学部 皮膚科学教室
専任講師 足立剛也(あだち たけや)
TEL:03-5363-1211 E-mail:jpn4156@me.com (academic e-mail address)
https://derma.med.keio.ac.jp/

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